「ビラスチン」は、アレルギー鼻炎をはじめ蕁麻疹や皮膚疾患などに適応する医薬品の原薬です。当社は、ジェネリック医薬品を製造・販売する顧客に対して、ビラスチン原薬を供給することを検討しています。ジェネリック医薬品とは、先発医薬品の特許期間が切れた後に製造される薬のこと。開発費が抑えられるため、先発医薬品に比べて安価に患者さんに届けられるという特徴があります。
Project Story 03 : アドバンストメディカルソリューション部門
社会的意義のある医薬品を、
患者さんに広く届けるために。
ジェネリック医薬品原薬の開発・製造プロジェクト。
アドバンストメディカルソリューション部門は、当社における次世代の成長領域として大きな期待が寄せられている。その中で、ジェネリック医薬品は効能・効果の高い医薬品を広く患者さんに届け、医療費削減という社会課題の解決に貢献するものであり、住友化学としてもチャレンジする意義は大きい。一方、その開発・製造には、先発医薬品とはまた異なる困難な壁が立ちはだかる。数年に及ぶ開発・製造フェイズを経て、2026年に供給がスタートした「ビラスチン」のプロジェクトを紹介しよう。
Profile
岐阜工場 製造部
第一製造課 課長
2004年入社/総合理工学府
物質理工学専攻
ファーマソリューション事業部
事業推進部 購買企画チーム 主席部員
2005年入社/理学研究科 化学専攻
アドバンスト
メディカルソリューション研究所
新規医薬化学グループ
2015年入社/理学研究科 化学専攻
アドバンスト
メディカルソリューション業務室
技術企画・管理グループ
2019年入社/工学研究科 工業化学専攻
アドバンスト
メディカルソリューション研究所
医薬プロセス化学グループ
2021年入社/理学研究科 化学専攻
Chapter01
未知なるチャレンジを、
数多くの患者さんのために。
—— 始めにプロジェクトの概要を教えてください。


そうはいっても、開発・製造には先発医薬品とはまた違う困難さがあるのですよね。住友化学で「ビラスチン」の開発がスタートしたのは2021年頃でしょうか。

プロジェクトとして正式に立ち上がったのは2021年ですね。実際には、予備的なフィジビリティスタディ※を行うことができる初期製法の確立を目指し、2020年秋くらいから動き始めています。ビラスチンを有効成分とするジェネリック医薬品の承認が下りると予想されるのが2026年。そのタイミングに合わせて、ビラスチンを供給できるように、逆算してプロジェクトのスケジュールが計画されました。ジェネリック医薬品の原薬開発・製造は、アドバンストメディカルソリューション部門における重点領域の一つとして位置付けられています。
※ある企画、プロジェクトなどが「実行可能か」を事前に検証する調査・検討のこと
—— 今日集まった5人のメンバーはプロジェクトでどのような役割を担ったのでしょうか?

私が所属する業務室では、プロジェクト全体の取りまとめを担当しています。実際には今回のプロジェクトは前任者が担当しており、私は全体には携わっていないのですが。

私が担当したのは製造プロセスの開発です。私は入社以来ずっと、この「ビラスチン」の開発に携わってきました。それだけに思い入れの強いプロジェクトですね。

私は、ビラスチンの製造を担当しています。試験製造の段階は、工場設備を用いた製造プロセスの検証や生産体制の構築を行い、現在の本格生産へとつなげることができました。

私は、今回のプロジェクトでは、品質管理のための分析を担当しました。本格的に携わるようになったのは、開発から製造へと製法をスケールアップしていくステップからですね。

私は現在、購買企画チームに所属しており、原料の調達を担当しました。価格競争力が求められるジェネリック医薬品では、原料の調達も大きな鍵を握ります。今回のプロジェクトでも、企画から開発、製造まですべてのプロセスに関わっています。
Chapter02
限られた情報の中から、
化学構造を解明していった。
—— 「ビラスチン」のプロジェクトでは、企画段階でどのような検討が行われたのでしょうか?

患者さんのニーズやマーケットの動き、さらには事業として成り立つのかといった検討を、さまざまな調査をもとに進めました。たとえマーケットのニーズが高かったとしても、患者さんに安価に届けられなければジェネリック医薬品としての価値を発揮できないわけです。そのため、企画段階から原料調達や開発、製造のメンバーと連携しながら検討を重ねました。

ジェネリック医薬品では、プロジェクトの企画段階から戦略的に原料調達を考える必要もあります。また、開発ステージから実機製造ステージと開発が進んでいく中では、必要となる原料の種類や求められる品質、量などが異なることもあり、それに合わせて原料ごとにサプライヤーを調査・選択し、交渉を進めなければなりません。医薬品の原料であるため、高度な品質管理と安定した供給体制が求められることも難しさの一つです。今回の「ビラスチン」では、現地での品質監査などのために海外へも数回出張し、サプライヤーと交渉を進めながら高品質かつ安定的な調達体制を構築していきました。
—— こうして「ビラスチン」の開発が本格的に始動したわけですが、開発ステップにおいてどのようなブレイクスルーが求められたのですか?

すでに先発の医薬品があるとはいえ、ジェネリック医薬品の製造プロセス開発は、ほぼ白紙のような状況からスタートしなければなりません。というのも、特許で公開されているものなど、参考にできる情報は非常に限定的なのです。さらに、価格競争力のある原薬の製法を開発するためには、先発品とは違う製法に果敢にチャレンジする必要があります。
「ビラスチン」の開発では、限られた期間で原薬の構造から鍵となる反応を設定し、製造プロセスを設計していきました。最適なプロセスを見出していくためには、原料の調達可能性やコストまで考慮した検討が必要となります。そのため、原料調達を担当する
さんにもサプライヤーの調査などでいろいろ相談に乗ってもらいましたね。
—— 開発を前進させていくためには、その成果を的確かつスピーディーに評価し、フィードバックしていく分析技術もきわめて重要になります。

そのとおりですね。医薬品は、人の命に関わる製品だけに、開発の段階から品質保証のための厳格な体制が求められます。たとえどんな素晴らしい製造プロセスを構築したとしても、その品質を保証するための分析手法が確立できなければ、プロジェクトは前進できないわけです。
私たち分析チームがプロジェクトに本格的に関わるのは、製造ステップの一歩手前の、パイロットプラントでの試験段階からです。また、製造ステップに進んだ後も新たな分析課題が生じた場合には、分析法の改善が必要になることもあります。
Chapter03
開発から製造へ、
プロジェクトは順調に進むと思われたが……
—— プロジェクトはその後、順調に前進していったのでしょうか?

いま振り返ると、開発ステップまでは比較的順調だったと思いますね。今回の開発では、まず実験室レベルでプロセスを確立し、それをスケールアップして、試験的なパイロットプラントで評価しました。このステップまでは大阪の歌島地区のパイロット工場で取り組んでいました。そして次のステップで、ステージを岐阜工場に移し、いよいよ製造現場でテストを始めたのですが……。

ところが、想定していた結果を得ることができなかったのですよね。

そうなのです。ここが、今回のプロジェクトのクライマックスだったと思います。

開発から製造へのステップアップでは、スケールや設備などが大きく変化するため、例えば反応の温度や時間、原料の配合方法など、当然さまざまな調整が必要となります。ところが、今回の「ビラスチン」では、このような調整だけでは対応できない状況に直面してしまった。

そこで再び実験室レベルに立ち戻って、課題となるプロセスを再現し、解決方法を探っていきました。最終的に、反応槽の加熱のスピードと時間に改善点があることを突き止めたのです。

さんから改善の提案をもらって、岐阜工場の実機で試し、期待する結果が得られなければ、また次の改善案を検討する。岐阜工場での試験製造が始まったのが2022年秋ですから、2年近く試行錯誤を繰り返しましたね。そして、2024年12月、いよいよバリデーションのステップを迎えたわけですね。

このバリデーションとは、意図した品質の医薬品が安定的に製造できることを証明する試験製造のこと。医薬品製造の承認申請を行うための必須条件なのです。私も岐阜工場まで出張して、現場で立ち会いました。基準を満たす評価結果を確認した時は、心の中でガッツポーズをしたくなるような気持ち。入社1年目からずっと取り組んできたテーマだけに達成感も格別でしたね。
Chapter04
原薬の先にいる患者さんに想いを馳せ、
誇りを抱いて。
—— そしてプロジェクトは現在、どのようなステップを迎えているのでしょうか?

2026年になってから本格的な製造がスタートし、まもなく原薬として医薬品メーカーに供給しようというステップです。岐阜工場としては、安定的かつ更に高効率な生産体制の構築など、まだ取り組むべきことは多くありますが、開発プロジェクトとしてはいよいよゴールに達したというステップだと思います。
—— 皆さんにとって、「ビラスチン」のプロジェクトは、この先どんな財産になっていくと感じていますか?

私は、現在の業務室に異動するまでは、
さんと同じように製造プロセスの開発などに携わっていました。その蓄積が大いに役立っていると感じると同時に、開発プロジェクト、さらには事業全体を俯瞰的に見据えながら仕事を進めていくという、また次元の違う経験を積んでいるという感覚がありますね。

私は原料購買に携わる前は、研究開発やジェネリック原薬の開発営業といったキャリアを積んできました。これらの経験も活かし、今回のプロジェクトであらためて感じたのは、多様なエキスパートたちと一緒になって目標に向かっていく楽しさ。それは社内の人たちだけでなく、サプライヤーの方々との連携でも同じです。ある原料の調達では、品質とコストを両立させるために、こちらから提案をして、サプライヤーの技術者の方とともに原料品質の改善に取り組みました。このようなアクティブな調達が求められることも医薬品原料の面白さだと思います。やりがいを実感するとともに、次のプロジェクトに向けて貴重な経験を得ることができたと思っています。

私にとっても、分析の技術者としての楽しさ、そして責任の重さを再認識するプロジェクトでした。高品質な製造を実現するためには、品質を評価する分析手法だけでなく、持続的に管理していく仕組みを構築しなければなりません。「分析」というと地味な仕事のように思う人もいるかもしれませんが、私たちは、安心な医薬品を患者さんに届けていくために、とても重要なミッションを担っているのです。

「ビラスチン」のプロジェクトでも壁にぶつかりましたが、製造の立ち上げでブレイクスルーが求められるのはよくあることで、それも含めて岐阜工場で製造に取り組む醍醐味だと思っています。このような楽しさを、これからはもっと若いメンバーたちに伝えていきたい。岐阜工場でつくる医薬品原薬には、日本で唯一、ここでしか製造できないものもあります。これからも誇りを持って、仕事に取り組んでいきます。

今回の「ビラスチン」の開発では、有機合成化学の技術がベースになりました。私にとっては、この有機合成の魅力、そして可能性をあらためて知ったプロジェクトでもあり、この領域の技術者としてさらに知見を深めていきたいと強く思いました。また、「ビラスチン」は、花粉症のような身近な疾患に適応されるお薬ですので、身のまわりのたくさんの人たちの健康に貢献できる取り組みがいのある化合物でした。我々が供給する原薬を用いたジェネリック医薬品が発売され患者さんの手元に届く日をとても楽しみにしています。