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100万人の死者が60万人に、
マラリア対策に大きく寄与したオリセット®ネット。

Project Story
02

オリセット®ネット開発プロジェクト

be WORLD CORE その志が、世界の芯になる

Personalities

農業化学品質保証グループ
グループマネージャー
藤田 恒久

健康・農業関連事業研究所
上席研究員テーマリーダー
庄野 美徳

#1

世界の3大感染症、マラリアによる重篤な被害

マラリアは「ハマダラカ」という蚊が媒介する、主に熱帯地方で発生する感染症。全世界で1年間に2億人以上の患者が発生し、死者はかつて100万人を上回ると報告されていた。住友化学は以前から殺虫剤「スミチオン」の提供を通じて、マラリア撲滅に取り組んで来たが、1980年代になってさらにもう一歩踏み込んだ形でマラリアに関わることになる。きっかけは当時の農薬事業部に在籍した社員たち。若い頃、青年海外協力隊の一員として出かけたアフリカ。アフリカで自身もマラリアに罹った経験を持ち、マラリアがその地域社会の発展を妨げる大きな要因であるという認識を持っていたのである。そうした社員の意識が、ある開発途上の技術を核として形になっていくのである。

「1990年代初頭、当時わたしの上司であった伊藤高明はプロジェクトリーダーとして、新しいマラリアコントロール方法の開発に取り組んでいました。一方並行して工場用の防虫網戸の開発が進められていました。食品や薬品、半導体、精密部品工場はわずかな異物の混入も嫌います。外部から飛来する昆虫は品質管理において大きな問題となるため、昆虫の侵入を防ぐ効果の高い網戸が求められていたのです」とかつて伊藤の部下であった庄野美徳。伊藤たちは、この工場用防虫網戸を蚊帳に応用しようと考えたのである。

#2

蚊帳の表面から徐々に殺虫剤が染み出る画期的な仕組み

「当時、すでに防虫剤を表面処理した蚊帳は出回っていました。しかし、単にピレスロイド防虫剤の薬液中に漬けて使用する蚊帳は、その効果が長持ちせず、とくに洗濯をすると薬剤が洗い落とされ、洗濯の度に薬液に漬けて乾燥させるという手間が必要でした。また当時の蚊帳に使用されたポリエステル製の糸は強度も十分ではないという欠点も持っていました」と庄野。

伊藤たちが着目した工場用防虫網戸は、薬液に漬けるのではなく、防虫剤を繊維の原料となる樹脂、ポリエチレンそのものに練り込んでしまおうというアイデアが元になっている。そのアイデアを蚊帳に応用できないか、と考えたのである。

「もちろん、樹脂にピレスロイド系の防虫剤を単純に練り込んだだけでは、有効成分が狙ったように放出されるわけではありません。何年も防虫効果が持続するように、徐々に有効成分が放出されるようなメカニズムが必要とされたのです」と庄野は、開発の苦労について言及する。

糸の原料となるポリエチレンの組成、添加物の選定、練り込みの際の条件設定など、試行錯誤を繰り返し、有効成分が徐々に表面に染み出すよう仕様や製造条件を煮詰めていく。もちろん、洗濯して効果が落ちることがあっては製品として失格である。さらに蚊が必ず蚊帳の糸に接触するような網目の大きさにしつつ、蚊帳としての通風性を確保しなければならないなど、蚊帳の編み方ひとつ取り上げても、さまざまな工夫が込められた。


#3

現地の設備で現地のスタッフが製造する

防虫剤を練り込んだ樹脂そのものは日本で製造するが、その樹脂を溶かし、糸に引いて、編んで蚊帳にする工程は、コストを考えれば、必然的に海外になる。蚊帳の量産にあたって、クリアしなければならない問題は山のようにあった。

そうした苦労について、藤田は次のように語ってくれた。

「まず、最初の防虫蚊帳の製造は中国で行われることになりました。中国製の紡糸機械では、日本製のようにスムーズに紡糸が出来ず、途中で切れてしまう。機械を操作するオペレータも高度な技能を持った日本のオペレータには及ぶべくもない。こうした状況を現地スタッフの教育から、一つひとつ解決して、やっと海外工場での製造が可能になります」

そして、現地での製造技術確立とともに、工場で働くスタッフの安全性確保も住友化学が果たすべき重要な責務であった。

「本来、繊維を扱う工場に防虫剤を持ち込むわけですから、取扱いの基準づくりから製造スタッフの教育啓蒙まで、こちらもすべてをゼロから立ち上げていくわけです」と藤田が語るように、防虫剤の取扱いに対するリスクアセスメントも大きな仕事となる。

工場内で実際に防虫剤を対象とした曝露試験を行い、曝露量を測定し、工場従業員が安全に作業できるように作業条件の制限や保護具対策を講じる。また、周辺の環境に対する影響も測定し、排水の管理方法なども決定し、さらには実際に蚊帳を使用するユーザーに対するリスクアセスメントまで行い安全を確認したうえで、防虫蚊帳製造と供給がはじめられるのである。


#4

WHOの認定を受け、オリセット®ネット世に出る

こうして世に出た防虫蚊帳「オリセット®ネット」は、WHOから世界ではじめて長期残効型防虫処理蚊帳としての効果が認められ、UNICEFなどの国際機関を通じて世界80以上の国々に供給されていくことになる。そして、中国だけでなく、ベトナム、タンザニアでも「オリセット®ネット」の製造が開始される。主要マーケットであるアフリカに位置するという物流上の利点だけでなく、現地に雇用を生み出し、地域経済の発展に寄与するという狙いもあった。2003年には現地のA to Z社に技術を供与し、生産を開始。拡大する需要に対応するために、2007年にはA to Z社のグループ会社とのジョイントでベクターヘルス インターナショナル・リミテッド社を設立。現在、タンザニアでの生産能力は年間約3,000万張りにもおよび、「オリセット®ネット」の製造だけで、最大7,000人の雇用機会を創出している。


#5

100万人の死者が60万人に、さらに挑戦は続く

以前100万人ほどいたマラリアによる死者は、現在約60万人まで減少していると言われる。「オリセット®ネット」は、この事象に少なからず寄与しており、現在も「オリセット®ネット」のマラリアとの闘いは続いている。そして、最後に庄野は「オリセット®ネット」の現在と将来について語ってくれた。

「近年、ピレスロイド系防虫剤に対するハマダラカの抵抗性問題が一部の地域で顕在化しつつあります。住友化学は抵抗性対策蚊帳として、ピレスロイドの効力を増強させる機能を持つ共力剤を付加した『オリセット®プラス』を上市しています。また、ピレスロイド系防虫剤に新規成分を添加した『オリセット®デュオ』も開発中、さらには、これまで使用されてきたピレスロイド系、カーバメート系ではない、まったく新しい原体(有効成分)の開発にも着手しています。特に後者は、ピレスロイド系防虫剤に対する抵抗性問題をクリアできるだけでなく、ピレスロイド系とのローテーション使用でハマダラカが抵抗性を獲得する時期を遅らせる効果を持つため、大きな期待がかけられています。今後も防虫蚊帳や防虫剤の開発を続け、マラリアに苦しむ人々の減少に少しでも貢献していきたいと考えています」


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