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既存の常識を覆す特殊高輝度染料の開発が、
液晶ディスプレイの未来を拓いた。

Project Story
05

ダイブライト(DyBright ®)開発プロジェクト

be WORLD CORE その志が、世界の芯になる

Personalities

電子材料事業部
機能薄膜材料部長
勝田 修之

住華科技(股)有限公司
彩色光阻技術支援部
協理
田中 聡

#1

顔料の微粒子化の限界が、市場ニーズのボトルネックに

近年、液晶ディスプレイは従来からの用途であるテレビ、パソコンに加え、タッチパネルと組み合わせたスマートフォンやタブレット端末など、さまざまなデバイスとして私たちの生活に入り込んでいる。液晶ディスプレイは、「赤(R)」「緑(G)」「青(B)」という光の三原色からなるカラーフィルターを光が透過することで、色を表現する。カラーフィルターを製造するうえで、その性能を左右させるのがカラーレジストだ。一般的なカラーレジストは、着色成分である微分散化された顔料と光硬化性のある樹脂溶液で構成されている。カラーフィルターの性能は、着色成分である顔料の性能に大きく影響され、それがディスプレイのコントラストや明るさ、さらには色再現範囲などを決める重要な要素となっているのだ。

年々発展を続ける液晶ディスプレイの技術トレンドは、表示画面の高色再現化・高精細化、製品の省電力化などがあげられるが、そのトレンドを追及すると表示画面が暗くなるという「欠点」が立ちはだかっていた。

時間は2006年にまでさかのぼる。液晶ディスプレイの製造を担う企業は、「より綺麗に」「より明るく」という市場ニーズを満たすうえでの「致命的な欠点」を超えられずにいた。理由は誰もがわかっていた。それはカラーレジストに使われている「顔料」の微粒子化の限界だった。

#2

「絶対に無理」と言われ続けたプロジェクトスタート

「顔料」は主に塗料や化粧品などに使われ、水にも溶剤にも溶解せず固体粒子のままで分散させて使用する色素だ。一方「染料」は、分子量が小さい有機化合物で、水や溶剤に溶解するという特徴がある。衣料用途に使われることが多く、複数の色を混ぜあわせることで比較的容易に新たな色をつくることができるという利点がある。

2006年当時、カラーフィルターの製造を担う技術者にとって、カラーレジストの「顔料」特有の技術的限界は、頭の痛い問題だった。ならば「顔料」ではなく「染料」を使ってみてはどうか。しかし、そこには別の問題が横たわっていた。それはカラーフィルター製造プロセスに求められる熱安定性や光安定性が明確に劣るというもの。染料を使えば、より美しい液晶ディスプレイをつくることができることは、誰もが理解していた。だがそれはラボレベルの話であって、量産化には耐えられない。勝田は当時をこう振り返る。「染料を使ってカラーレジストをつくりますというと、当時は誰もが『それは無理でしょう。顔料に勝てるわけがない』と言う状況でした」。当時、住友化学の子会社である韓国・東友ファインケムに出向し、韓国の液晶ディスプレイ業界と最前線で向き合っていた田中はこう述懐する。「液晶ディスプレイ業界の中でも、染料を適用したカラーレジストに対しては全く信用がない状況でした」。


#3

「荒唐無稽」へのチャレンジが突破口に

染料に対する信頼性不足という社内外からの向かい風をはねのけ、通常ならば「一蹴されて終わり」だったプロジェクトが立ち上がり、推進し続けることができたのはなぜか。競合他社ですら諦めていた特殊高輝度染料の開発に「顧客ニーズ」として真剣に向き合ったのはなぜか。勝田、田中をはじめとしたプロジェクトメンバーには、ある「想い」があった。住友化学には、かつて衣料用染料開発に従事した“色のプロフェッショナル”がたくさんいる。ちなみに勝田、田中両名もかつては衣料用染料開発に従事していた研究者だ。住友化学が培ってきた染料開発、色設計、分子設計、工業化の力を再構築すれば、新しい染料を生み出すことができるはず。勝田は振り返る。「当時、現場は誰もダメだなんて思っていませんでした。確信はなかったが絶対になんとかなると……。だから諦めた人間は誰もいませんでした」。その一方で、ここで他社が到達し得ないレベルの製品開発に挑戦しなければ、いずれ価格競争に巻き込まれ、市場から退場を余儀なくされるという恐怖心もあったという。

プロジェクトは、順風満帆に進んだわけではなかった。顧客の製造プロセスに耐えうる耐熱性、耐光性、耐薬品性がなかなか超えられない。住友化学が持つ衣料用染料のデータベースを精査し、最適材料のスクリーニングを実施したが、液晶ディスプレイ用カラーレジストに使用可能な染料は、一向に見つからなかった。「赤」「緑」「青」の三原色の全てを染料に変えるという「壁」の高さは想像以上だった。突破口となったのは、着眼点を変えたことだった。顔料と染料を混ぜたらどうかという、研究開発に従事する者からすれば「荒唐無稽」とも思えることにチャレンジしたのだ。研究者にとって、顔料と染料を混ぜるということは、「顔料になる」ことを意味していた。だが、顔料と染料のハイブリッド化という挑戦は、予想を遥かに超えた結果をもたらした。顔料が持つ優位点である耐熱性、耐光性、耐薬品性と、染料が持つ優位点である輝度を両立させたのである。業界内の常識を覆した瞬間だった。


#4

数値の衝撃を、製造ラインへ

液晶ディスプレイのカラーフィルターは「赤」「緑」「青」の三原色で構成されている。つまりカラーレジストも3種類が必要となる。従来の顔料系カラーレジストでは、「青」の輝度が他の2色よりも低いことが技術的な課題としてあげられていた。幸運にも顔料と染料のハイブリッド化は、「青」から実現した。従来の「青」カラーレジストには、ブルーとバイオレットの顔料が使われている。そのバイオレット顔料を独自開発したバイオレット染料に変更することで、顧客ニーズを満たす性能が実現できたのだ。できあがったばかりの顔料・染料ハイブリッド・ブルーを持って、勝田は顧客の元へと走った。

顔料から染料へという変更のみならず、三原色のうち「青」がより明るくなるということは、顧客にとって大きな衝撃だった。業界内では「青」を明るくするのは無理だという「常識」が根強く存在していたからだ。だが、数値面でのインパクトはあったものの、染料に対してのマイナスイメージはなかなか払拭できなかった。顔料を使っていた従来のラインを染料に変更することで、ラインが汚染されるのではないかという抵抗感は予想以上だった。勝田はまず日本でラインテストを受け入れてくれた企業に張り付いた。一方、韓国の東友ファインケムから帰国していた田中は、東友ファインケムでのラインテストを実施し、韓国市場での展開を見据えていた。無事、日本と韓国双方でのラインテストで満足のいく結果を出すことができた。ようやく拡販に対するスタートラインに立つことができたのである。時は最初の顧客提案から2年が過ぎようとしていた。


#5

液晶ディスプレイのさらなる高性能化へ貢献

顔料・染料のハイブリッドカラーレジストは「DyBright ®」と命名された。なかでも「青」は、現在、液晶ディスプレイ業界におけるデファクトスタンダードへと成長している。そして「青」に次いで「赤」も上市した。現在は、「緑」の開発とともに、プロジェクトがスタートした時点での目標である「オールダイ」、つまりハイブリッド製品ではなく、全てを染料に変えることも視野に入れている。競合他社が追いつけないレベルにまで駒を進めることができたのだ。

田中は振り返る。「ブルーの製品を出したときに業界が一変しました。それまでの常識を覆す出来事が起こったのです。その空気感を身をもって体験できたことは、とても大きな財産です。こんな経験はなかなかできるものではありません」。勝田が続ける。「このプロジェクトが成功した一番の要因は、住友化学が長い歴史を通じて積み重ねてきた基幹技術があったということ。既存の豊富な技術を融合して新しい展開へと結びつけることができた好事例になったと思います」。液晶ディスプレイメーカーは韓国の他、台湾、中国へと拡がり、「DyBright ®」の引き合いは、世界中に拡大している。ここ数年の飛躍的な液晶ディスプレイの高性能化は、「DyBright ®」の開発に尽力した勝田、田中をはじめとするプロジェクトメンバーが大きな役割を担っているのだ。


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